「後、もう一押しとはおまえもなかなか隅に置けないな、フランソワ」
「もう一押しどころか、こいつらのやってることと来たらまるでガキのままごとみたいで
やってらんねえったらこの上ないね。おい、俺が口説いて見せてやるから、その店に行ってみようじゃないか。」
慌てて睨みをきかせるフランソワの背後でぷっと噴出したアンドレを、アランは見逃さなかった。
「何が可笑しい、アンドレ」
「いや、俺も是非行きたいな。おまえが女性を口説くところ、見てみたいよ」
「アランはね、何も言わないでただ実力行使するだけなんだ、絶対店は教えない!」
「なーにが女性だ、気取りやがって!そうやって上品ぶってるからおまえは何時までたっても
女に不自由してるんだよ、おい、フランソワ、おまえもこんなやつに倣っていたら一生日照り続きだぞ」
聞き捨てならんな、アラン。
この男所帯では分かりづらいかもしれんが、こいつは魔性の男だぞ。
ヴェルサイユでさしたる敵も作らずに数多の御婦人のお誘いを
さらりとかわすのはかなりの高度な技術を要するのだ。
それをこいつは無意識の内にやってのける。
こいつに玉砕した御婦人方は、その笑顔と屈託のなさに恨んだり、
嫉む気を無くしてしまうらしいのだ。
時々、私が水を向けると、おまえは
『彼女らが注目しているのはおまえだろ』
と、笑うが、わたしを隠れ蓑におまえを見つめる目は決して少なくはなかった。
「こいつはな、アラン、見かけによらず手足れだぞ」
アンドレが目をまん丸くして私を見た。
そらみろ、全く自覚が無い処が魔性なんだ。
ちょっと釘を刺して置くか。
「こいつの御婦人方の扱い方は、そん所そこらの青二才の貴族の御曹司の比ではない。
フランソワ、おまえの人選は正しい」
「おいおい、一体何を言い出すんだ」
「だが、反面見当はずれとも言える。こいつは自分の言動が女心にどう響くか分かっちゃいない。
その点は気を付けろ」
「女心〜〜〜!!」
見事なカルテットで反応が返って来た。変なところで気の合うやつらだ。
しかし、私も言ってから驚いた。女心。
私に先の台詞を言わしめたものはそれか。
「なんだその意外そうな顔つきは」
アンドレは毒気を抜かれた顔で苦笑し、
フランソワは何かピンと来たようだ。こいつは若いが、なかなかいい勘をしている。
アランはけっと横を向いた。こいつも察しは悪くない。
何かと嗅覚が効くから突っかかって来るのだ。