「父上ーーーっ!!」

ほほう、もう来たか。
書斎でくつろいでいたレニエ・ド・ジャルジェ将軍は駆け込んできた息子たちに目を細めた。

「父上、ぼく、冒険家になります!アンドレと一緒に世界中を回ります!」

 興奮して頬を上気させている"息子"は、相棒を従わせ、その年頃の子供にしては 分厚い本を大事そうに抱えたまま将軍の膝に転がり込む。将軍は、その本を取り上げると
「オスカル、この本はわたしがアンドレのために買ってきた本だぞ。アンドレの9歳の誕生日祝いと、英語の勉強を兼ねて」
「ですが父上、アンドレにつうやくしてあげてるのはぼくなんですよ!アンドレはまだ英語できないから」
「"つうやく"じゃない、"ほんやく"だ」
「ほんやく・・・」

 全く、フランス語さえまだ使いこなせない子供のお前が、アンドレの英語の出来をうんぬん言える立場かね、と 将軍は半分呆れた表情を浮かべると、おとなしく"息子"オスカルに従えられているもう一人の息子に声を掛けた。

「お前はどうだった、アンドレ?」
「おれ・・・いえ、ぼくも楽しかったです。特にガリバーが飛ぶ島に行くところが」
「えっ、なんで?小人の国や巨人の国のほうが面白かったじゃない」
「それも面白かったけど、飛ぶ島のほうがワクワクする」
「えーっ、ぼくと一緒じゃないとダメだよ!」
「なんで?オスカルは小人や巨人の国がすき、おれは飛ぶ島のほうがすき、それでいいじゃない」
「えーっ、でも・・・」
 子分が自分と違う意見を持つとすぐ拗ねるガキ大将そのものの態度で、オスカルは口を尖らせた。

「アンドレの言う通りだ、オスカル。人はそれぞれ違うのだ。違うからこそ面白いのだよ」

そうかなぁ?と額に疑問符をつけた"息子"は、年の割にはしっかりしているがまだまだ子供だ。 でも、その子供らしさが逆にいとおしくもある。アンドレが来てから取り戻した子供時代を、 オスカルは存分に楽しんでいるに違いなかった。



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