《アト 12ジカン 25フン デ ・・・》
着信音に読みかけの本を放り出し、大急ぎでスマホを手に取る。
打ちかけていたメッセージを慌てて止めたことが丸わかりだ。
無意識の作業で、文章の途中で【送信】をタップしてしまったらしい。
《あと 12時間25分で ・・・》
続きに何と入れようとしていたのだろう。
《あと 12時間25分で やっと 会える》
《あと 12時間25分で 抱きしめることが できるよ》
《あと 12時間25分で おまえを 淋しさから 解放できる》
できれば、自分の想像を上回る愛の囁きを送ってほしいと思いながら、
スマホを一旦置きかけたが、ふと不安に駆られる。
緊急事態でも起こったのではないだろうか。
恋人は、体調を崩した隊員の代わりの夜勤要員として、緊急招集された。
そう命じたのは自分だ。
本当は自分自身が替わってやりたかった。
いや、もっと本音を言うならば、恋人と一緒に夜勤に就きたかった。
悲しい性だなと、今度は苦笑いになる。
もしかしたら、誰かに声を掛けられ、からかわれたくないばかりに、
急いでスマホをロックしただけかもしれない。
夜食の時間だと呼ばれ、大慌てで食堂に走っただけかもしれない。
そうだ。
もしも、緊急事態でも起こっているなら、とっくに、その第一報は自分の元に
届いているはずだ。
恋人がメッセージを途中で止めた理由は、明日の朝、お帰りとおはようの
くちづけを交わし抱きしめた後、ゆっくり尋問してやろう。
続きが届くには、時間がかかりそうだ。
《12時間25分も 待てない 早く おまえに 会いたい》
淋しさは人を素直にさせるのだなと思いながら、送信する。
恋人は、スマホを開いて、どんな顔をするだろう……。
≪FIN≫
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