コウノトリ・好敵手

       コウノトリ

「え…?」
「コウノトリが飛んで来たんだ」
「コ…ウノトリ…!」
「うん」
「…って、オスカルおまえ…!おい、こっち向いて」
「いやだ」
「こっち向けって、こら、…あっ、いてて、食いつくな」
「……」
「本当に?」
「念を押すな、莫迦」
「……!」
「…苦しい…」
「あ、ご‥ごめん」
「嬉しいか?」
「嬉しいよ、こんなに嬉しいことってないよ」
「…アンドレ…アンドレ!」
「あれ、泣いてるのか?どうして?」
「どうしても、だ!」
「幸せな涙?」
「慟哭の涙だ!」
「それは、まずいな」
「最初は嬉しかったんだ、初めておまえのためにしてやれる事が私にもあると思うと…」
「それから?」
「怖くなった。私が…だぞ!信じられるか? …何が可笑しい!
」 「おまえじゃなきゃ、誰が?俺がか?」
「ばか」
「あ、笑った」
「私がこんなに動揺しているのに、おまえは小憎らしいほど落ち着いている…」
「俺の心臓の音、聞こえるか?」
「うん…ああ、成る程…」
「静めてくれるかな?」
「先に私のほうを何とかしてくれ」
「そうだな、ではキスなどしませんか?」
「うん」

「しょっぱいな」
「今度こそ、幸せの味だアンドレ」
「オスカル、ありがとう…」
「ふふ、まだ少し礼は早いんじゃないか? おまえも、しょっぱいぞ」

        好敵手

「あっ、しまった!」
「なんだ?唐突に」
「いつまでも、おまえは俺だけのもののはずだった」
「違うのか?」
「違うもんか、その為に俺は並居る敵をバッタバッタとなぎ倒してやっとおまえに辿り着いた」
「やっと辿り着いたってところは、聞くと胸が痛いが…並居るっていうのは大げさ過ぎやしないか?」
「おまえをめぐっての恋敵だぞ、手強い相手だった、数の問題じゃなく」
「う…ん…(何てコメントすればいいんだ!)」
「それにな、敵は人間ばかりとは限らない」
「あ…あ、そういうことか、人間以上に手強い敵だったな」
「でもやっぱり怖いのは人間だよ。一番手強かったのは…ふふ、誰だと思う?」
「楽しそうに聞くな…誰なんだ」
「お・ま・え♪」
「◎×△◇☆〜!」
「…と言うのは冗談で、一番厄介だったのは俺自身かな」
「おまえ自身が?」
「おっと、墓穴を掘るとこだった、この話は止めよう」
「ふっふ〜、遅いな、どういうことだ?」
「おまえ〜分かってて面白がっている目をしてるぞ」
「実に楽しくなってきたな、懺悔なら聞いてやる」
「どうしてこんな展開になったんだ〜」
「おまえが始めたんだぞ」
「そうだった!俺達には新たな恋敵が現われる、と言いたかったんだ」
「おまえにそんな緩んだ顔をさせる相手が恋敵…か?」
「おまえと俺の間に入り込むものは―」
「ダメだアンドレ、おまえその様子ではすでに勝負ありだ」
「一生おまえを独占するつもりだったのに」
「おまえこそ」
「え?」
「その新たな恋敵とやらが姫だったりしたら…」
「お、いいね」
「そら、見ろ、分が悪いのは私の方だ!」
「では、小さな騎士どのが登場すれば、俺の負け?」
「どの道勝てん、おまえも、私も」
「じゃあ仕方ない、期間限定と割り切って覚悟を決めよう」
「あ、何を…」
「まだしばらく独り占めできる、おまえも今の内だぞ」

fin