「見つめていたい」 作:ふるーる様
ふとした瞬間に・・・目が合う。
おまえの黒い瞳が私を見つめる。
真っ直ぐに見つめてくる一つの黒曜石は
いとも簡単に、私の心を射抜いてしまう。
心臓が踊り出し、自分で自分を持て余す。
そんな自分を気取られたくなくて、
私は視線を彷徨わせるが、それも束の間の反抗だ。
黒い瞳に吸い寄せられるように、
今度は私がおまえを見つめる。
子供の頃から変わらぬ、やさしい瞳・・・
いつも、私に安らぎを与えてくれる。
けれど、私は知っている。
時折、おまえの瞳が野生動物のように
危険で妖しい光を放つ事を・・・
ほら、今だってそうだ。
そんな目で見るな。
めまいを起こしそうだ。
時間がこのまま止まればいい。
そう思う心とは裏腹に、見つめ合うだけでは
物足りなくなってくるから、不思議だ。
私は・・・私の耳はおまえの声を欲している。
心臓の音までが、おまえの名前を呼んでいる。
胸が苦しい。こんな自分にとまどいさえ覚える。
それならばこの腕を、指一本動かせば
この状態から解き放たれる。
けれど、今はまだ、このまま・・・
おまえだけを見つめていた・・・い。
俺はいつも、いつもおまえだけを見つめて来た。
泣いた顔、笑った顔、怒った顔
なにやら悪戯を思いついて、口角を上げている顔
子供の頃から見つめてきたおまえの様々な表情。
そのどれもこれも、愛しいけれど・・・
とりわけ俺を捕らえて離さない表情がある。
オスカルの瞳がゆらめく。
その様をどう言えばいいのか・・・
難しくて、言葉に出来ない。
可愛らしくて、もちろん綺麗で・・・
一瞬で、俺の心を奪ってしまう。
それは本当に気をつけていないと、
見逃してしまう小さな変化。
ほんのりと頬が染まり、伏し目になる。
やがて、長い睫毛が震えながら持ち上がり、
青い、青い瞳が俺を見つめる時、息を呑むばかりだ。
子どもの頃、おまえと一緒に見た本に載っていた
見る事ができると幸せになれるという青い蝶・・・
その幻の蝶が、目の前で羽を広げたかのような錯覚に囚われる。
とたんに胸の鼓動は早まり、乱暴に青い蝶を
この手の中へ捕らえてしまいたくなる。
だが、そんな事をすれば、蝶は羽ばたかなくなってしまう。
蝶はやはり、その美しい羽を広げて、
自由に飛び回っているからこそ美しいのだから・・・
もう少し・・・もう少しだけ、
このままそっと、見つめていよう。 |